恋愛=セックスする言い訳

わたしと彼はSNSで知り合った。もう、SNSなんて過疎地って言われていたのに、こんな人に出会えるんだって少し驚くくらいに好みの人だった。

友達シィにはまだなっていない。というか、きっとこの先彼と友達シィになることはないだろう。

お互い出会った瞬間に好きになっていて、気持ちを伝え合う前はふらふら楽しい会話をしていた。

恋っていうのは気付く前が一番楽しいと、誰が言っていたっけな。

「好きだよ。僕の彼女になって欲しい」

そんな言葉に絆されて、既婚者だって知っていたのに、だから出会い目的じゃないってメッセージもらっていたのに、好きになっちゃって、それで、そんなこと、言うから。

「嬉しい」

わたしはバカだ。

それから会うまでの数ヶ月間はとても長く感じて、だけどあっという間にも感じて。

会ってみたら写真と寸分の狂いもない見た目と優しい笑顔でわたしはとても安心して、彼はわたしを可愛いと言ってくれて、抱きしめてくれて、裸になって。

全身にキスをされた。

足の指から始まって、ふくらはぎ、太もも、少し路線変更してお腹、ウエスト、胸の膨らみは少し行き来して、鎖骨から肩のライン、徐々に下がって指先。

また指先から肩、鎖骨、首筋に少し唇は居座っていて、それから、顎、耳、、額、鼻。

残すはもう、唇だけだった。

なのに。

あとほんの数ミリ。

近づけば唇に到達するはずだったのに。

「お預け」

ふっと笑った彼の息が唇に触れる。

「キスして」と言ってしまえたらよかったのに、わたしはじっと身動きが取れないまま、わたしの体を弄る彼の唇の感触を感じていた。

こんなに温かくて気持ちの良い唇をわたしは知らない。こんなに温かい指をわたしは知らないのに。

唇がわたしの唇を塞ぐことは結局最後までなかった。

行為が終わってもわたしは惘然としていて、何も聞くことができなかった。

彼は、バスタブにお湯を溜めて、裸のわたしを抱き寄せて一緒にお風呂に入る。背後から抱きしめられている感触はあるのに、彼の実体が湧かない。

わたしは本当に彼と会っていて、さっきまで彼に突かれていたのだろうか。もしかすると彼への気持ちが先走って、彼に憑かれているだけなんじゃないだろうか。

そんなことばかりが頭によぎる。

「ね、あのさ」

「何?」

わたしの背中に舌を這わせている彼に問いかける。

「まだ、好き?」

「まだ、っていうか、変わらないよ。大好きだよ」

ならどうして唇にキスをしてくれないの。

聞けないのはどうしてだろうか。

「わたし、好きだよ。あなたのこと」

「知ってるよ。僕だって、好きだ。それは今更言葉にしなくたってわかることだろう?」

「そう、だね。ねぇ、また、会えるかな」

「今、そんな話しなくてもいいんじゃない?僕は何でも本音を言葉にすることが正しいって思えないんだ。言葉なんて、きちんと伝わるわけじゃないし」

それはそうかもしれない。

言葉はいつも思いの半分も伝わらないし、真っ直ぐ思い通りに伝わらないかもしれない。でも、今、とても不安だった。

キスをされなかった、というただこの一点の曇りが全ての行為に霧をかけて、会って愛情を確認する行為のはずだったものは、ただのセックスに成り下がっていた。

だから、今、欲しいのは、言葉、なのに。

わかってもらえない。

言えば伝わるかもしれない。でも、彼はきっと今みたいに講釈を並べ立ててわたしを抑圧するんだ。

帰り道、彼はわたしを抱きしめて言った「またいつかね」が忘れられない。

頭の中から離れない。

「いつか」っていつ使うのか、わたし知ってる。もう子供じゃないから、知ってる。

叶わない約束をする時に使うの。

ねぇ、叶わない約束をする意味って何かわかる?一応セックスする相手として保ちたい時、一応穏便に今日を終わらせたい時。

わたしの何がいけなかったのか必死に考えた。体型?笑顔?言葉遣い?体の相性?どれもこれもわたしの一方的な思い込みじゃまるでわからないことしかなかった。

聞けば、あなた素直に答えてくれる?

聞けば、あなたまたわたしに会ってくれる?

所詮みんな、所詮みんな、っていつも思ってた。そうすることによって自分を守ってきたのに、好きになった今、わたしは無防備に傷ついてる。