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ピンク・フロイドの「狂気」をめぐって

割と知られている事だが、ピンク・フロイドは作家安部公房が最も愛したロック・バンドである。本作、世界で最も売れたロックのアルバムとしてあまりにも有名。

彼らはテクニック重視ではない。感性先行型の感覚的、情緒的なバンドである。

心臓の音。彼らの得意とする効果音と自然音、そして声の混じった導入部から、アルバムは始まる。すべての曲がメドレーでつながっており、全体が組曲のように構成されているのも一つの特徴である。

かつてこのバンドにはシド・バレットという、特異な感性を持った天才肌のミュージシャンがリーダーシップを執っていたが、デビュー後間もなく統合失調症を発症、ロック・シーンからリタイアしてしまう。彼はデヴィッド・ボウイーや新世代のミュージシャン達に絶大な影響を与えたが、病は改善することもなく再デビューは叶わぬまま逝去してしまった。その後バンドは音を感覚的に捉えた宇宙的サウンドに移行してゆく。このアルバムの前に「おせっかい」という作品を発表しているが、この作のB面全てを使った23分に及ぶ「エコーズ」の演奏は、狂気一歩手前のような、まさに宇宙感覚に溢れた耽美的な曲であった。私自身彼らの曲で一番と言ったら、迷うことなく「エコーズ」を挙げる。この曲は何千回聴いても決して飽きない稀有な名曲である。

「狂気」の話題に戻る。このアルバム、特に音楽的に優れているとも思えない。平凡な出来である。この年、73年には、キング・クリムゾンが「太陽と戦慄」という奇蹟的名作を発表しており、楽曲のレベルから言えばクリムゾン作に完全に負けてしまっている。だが、こどもにも解るという点では、彼らのこのアルバムは教育的にいいのかも知れない。